6月17日放送

 とかく心というものは難しい。
 人の心は勿論だが、自分の心でさえ「何を感じているのか、今どうしたいのか」が、意外とわかっていないものだと言われている。
 私自身を振り返っても、「割りきった」と決着をつけたことなどがある日突然心の底から浮上してきて、思いがけない燃え残りのくすぶりをもてあましながら、しばし感情の海をさ迷うことがある。
 自分でも厄介だと思うが、「潔さと優柔不断」「クールさと熱さ」「頑固さと素直さ」「大胆さとビビリ」、そんな相反するものが不思議に混ざりあう心の芯を、やじろべえを手にするように汗をかきかき操作することがある。

松谷桂子さん そんな、本人でも認識出来ていない今の心の動きや願望を、その人が描く絵によって読み取り、隠れたストレスを発散させたり、感情や欲求を満たせ、気持ちをリラックスさせるのが、「絵画療法(アートセラピー)」であると、今回ゲストの松谷桂子さんが解説してくれた。
 絵には、必ずその人の潜在意識ともいえる本質の思いが表れる、と。
 覗いてみたいような、触れずにおきたいような、興味深く、そして、ちょっぴり怖ろしい、心を映す鏡のような「自分が表れる一枚の絵」。

松谷桂子さん 松谷さんは、札幌で活動する絵画療法士だが、以前、塾で英語を子供たちに教える日々のなかで、「学校に行きたくても行けない」子どもたちに数多く出会い、その状況をなんとかできないものかと心理カウンセラーを目指したというきっかけがあっただけに、「子育てアートセラピー」の分野に力を注いでいる。

 子どもが自由に描いた絵の色や筆圧、モチーフ、配置などを見て判定するが、「絵画療法は、決してその人自身を判定するものではなく、現在の気持ちや何を求めているかなどを知る『今の情報』を判断するもの」と話す。大事なのは、単に描かせることではなく、そこからストレスを発散させたり、気持ちを満たしていくという、ひとりひとりに合った適切で継続的な関わりこそが意味がある、と。
 東日本大震災後、被災した子どもたちのケアの重要性が言われているが、「絵画療法を取り入れる場合は、絵を描かせて判断して終わりという一過性のものではなく、そこから長い時間をかけて心を癒していく持続した働きかけが何より大事。そのために、関われる専門家がより多く必要になってくると思う」とも。

 「あの震災後、心をじっくり育てる時代がきたのではないか」と松谷さんは言う。
 「これまで、心の中のものを取りだしてゆっくりと表現する時間がないがしろにされすぎてきたのではと思う。だから、『学校へ行きたくても行けない』子どもたちを作ってしまったのでは」と。
 あの不幸な震災が分岐点となり、もっと人の心を理解しよう、寄り添おう、そのために何が出来るかをひとりひとりが考えるきっかけになれば、倒れた樹からたくさんの新しい芽が出るように、人の心の再生が連鎖し、人としての本質がより強く、より高いものになっていくのかもしれない、と私も思う。

 松谷さんは心理カウンセラーとしての学びを進めていくなかで、人がどんどん好きになっていったそうだ。どこへ行っても、何をしていても、どんな人とも仲良くなれる自分になっていったと、「宝ものはなんですか?」という質問に、「身につけた技術」という答えとして話してくれた。
 「子どもは勿論、人の中にはそれぞれ、まだまだ外に表現されていないことがある。誰でも本質のところではいいところが沢山ある」というのが、心理カウンセラーとして気づいた宝もの。
 そして、人の中に必ずあるいいところを個々が描いた絵からみつけ、伸ばし、より良く変わっていくように導くのが、絵画療法士として身につけた技術。

 にんげんって、やっぱりいいものだ。
 絵本の中に出てくる台詞のように、そう感じた。
 様々な出来事が世の中には起こっているが、やはりそう感じられるほうが断然幸せだ。

 共感の言葉をやりとりしたインタビュー後、セラピー体験をした後のような心地よさの中でふと腑に落ちた。
 自分の中で揺れ動く「やじろべえ」も、そのまま認めて、そして受け入れればいいのだなあ、と。

(インタビュー後記 村井裕子)

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