4月1日放送

 何らかの技を追求する職業の場合。長い人生を一本の物差しだとすると、最初の幾目盛りかが「何かを目指し励む」時期。そして、「プレイヤーとして存分に力を注ぐ」時期。その自分の力の可能性を伸ばし発揮する長さは人により様々だが、その後、「培ったものを次へ繋ぐ指導者として新たに尽力する」時期がある。

 アスリートや表現者たちは、いったいどんなふうにしてこの3つの目盛りを刻んでいるのか、私は何かを成し遂げるひとりの人間の「自分の中でのバトンの渡し方」にとても興味がある。どの分野でも「プレイヤー」としての時期はその「3分割」のうちそれほど長くはない。スポーツでも芸術の世界でも、実は「プレイヤー、その後」が人として大事な何かを試されるのではないか、と常々思っているからだ。

千田雅子さん 今回のゲストは、バレリーナから指導者として多くの優秀な後進を育ててきた千田雅子さん。母親である千田モトさんは、戦後、北海道の舞踊界を牽引してきた第一人者。雅子さんはそんなモトさんに厳しくバレエを叩き込まれ、当たり前のようにプロの道へ。
 ご本人曰く「沢山のコンプレックスと闘いながら」準主役であるソリストまで登り詰め、23歳で引退。
 そこから、指導者としての次のステージに向かっていく。ものさしの3分割としては最も長い。しかも、今も尚、目盛りを刻み続けている。

千田雅子さん 人を教えるにあたり、どんなことを心がけているのかを伺った。
 母親のモトさんはひらめきの才に長けた「気合い」の指導者だったそうだが、受け継いだ雅子さんは違うそうだ。「人は皆違うので、きちんとその子を知ることが大事。ひとりひとりのカルテを作って、個々の特性に合わせた指導を心がけている」と。
 テーラーメイド、個別対応の大切さだ。
 そして、「今の子は、昔はこうだったなんて言っても自慢話になってしまう。背中見て覚えなさいでもだめ。まして、精神力だけ押し付けてもついてこない。こちらが、相手を知る配慮をすることにより、引き出してあげられるものがある」とも。

 コーチングのスキルの中にも、「人にはタイプがある。人はそれぞれ違うのだ。そのタイプを知り、相手の立場に立ってものを見たり考えたりすることが欠かせない」というコミュニケーションをよりよくするための基本がある。個々の中にある力の違いを見極め、発揮させるための重要な視点だが、実はこれが日常の中では出来ているようで出来ていない。「なんで分からないのか?なんで分かって貰えないのか?」というミスコミュニケーションはそこから来ていることが少なくない。バレリーナを目指す人たちも、そういう「相手を知る」視点を持つ千田さんのような指導者に教えて貰えるということは、なんと幸せなことなのだろうと思う。

 千田さんがバレリーナを目指して努力していた年月、プロとして踊っていた年月は長くはないが、その2つの時期の目盛りは深くて、そして濃かったのだろうとつくづく思う。今の指導者としての確信や自信は、その時期の深さ、濃さからきているに違いないと思うのだ。

 「千田さんの宝ものは何ですか?」と問いかけると、間髪入れず「息子です!」という言葉が返ってきた。40歳になる息子さんが、アメリカでの修行を経て、北海道のヒップホップ界を牽引する指導者になったと話す時の千田さんのひときわ嬉しそうな笑顔が印象的だった。
 やはりお子さんの指導も、その子の特性を知り、持てる力をフルに引き出されたのだろう。
 それは、存分に結果が教えてくれている。

(インタビュー後記 村井裕子)

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