2月19日放送

 ピーター・ドラッカーの有名な寓話に、3人の石切り工の話がある。
 教会建設現場で「あなたは何をしているのですか?」との質問に、石工Aは「これで食べている」。石工Bは「腕のいい石切りの仕事をしている」。そして、石工Cは「教会を建てているのです」と。
 「ミッション(使命)とモチベーション(やる気)」についての逸話である。
 石工Aは、モチベーションが仕事にはない。
 石工Bは、モチベーションが仕事そのものである。
 石工Cは、仕事を通してその先に実現したいことにモチベーションがあり、自分の使命であるミッションがはっきりしている。
 自分がやっていることがどう社会の中で貢献できているかの自己認識次第で、仕事の仕方も成果も変わってくるというのは本当にそうだと納得し、私自身も自分の仕事の取り組みを考える時に、いつも「この仕事の先には何があるか」を頭の隅に据えている。微力ながらも。

王一郎さん 今回のゲスト王一郎さんと対談して真っ先に頭に浮かんだのが、この「ミッションとモチベーション」だ。王さんが楽しそうに打ち込む仕事の先には、やがてそこに繋がる完成図がくっきり鮮やかに描かれている。
 王さんは、函館エリアに15店舗を展開するハンバーガーショップ「ラッキーピエロ」を率いる、神戸生まれで中国人を両親に持つ実業家。1987年に函館ベイエリアに一号店を開店して以来、その土地以外では食べられない「ご当地ハンバーガー」のお店として大人気になり、今やインターネットでの情報も相まって、観光客にもお目当ての道南観光スポットとなっている。普段ハンバーガーはあまり食べない私でも、「食材は地産地消。冷凍は一切せず、すべて手作り」と聞くと、函館に行った折には、手作りケーキとともに是非食べてみたい気持ちに駆られる。
 お話を伺っていくと、「地域への貢献」というキーワードにとても熱い思いがこもっていることが伝わってくる。なぜ他の都市から請われても店舗を拡大しないか。それは、地方独自の文化が必要だから。そして、地域と一緒にコミュニティを作り上げていくことこそが大切だから。地元の農家の食材を使い、環境に配慮し、喜びや悲しみも共有する。食の提供で何かを貢献できることが最大の喜びだ、と。
 一店一店、お店の建物のテーマも変え、まるでワンダーランドのような楽しさに溢れているのも、来てくれるお客さんにびっくりして貰いたい、楽しんで貰いたいとの現れだという。王さんの幸せ感を表すエピソードとして、例えば、中学生ぐらいの男の子たちが4人掛けの席に6人でギュウギュウに座って、何だか楽しそうに話しながらご飯を食べている姿を見る、ただそれだけのことに「ああ、本当に幸せだ」と思うという。

王一郎さん そして語る。「私は『愛の使者』になりたいと思っている。なぜ働くのか?それは、なぜ生きるかということに通じる。食を通して、他を愛することができる人間になりたいのです」と。
 人を愛するとか幸せにしたいなど思っていても、口にすると理想主義だの青いだの甘いだの言われるんじゃないだろうかと、ストレートに言うことに躊躇してしまう空気が世の中には漂っている。でも、言っていいのだ、真っ直ぐに。人を思う理想や夢を語って何が悪い。そんなことを感じさせて貰えるほど、小気味よかった。
 そしてインタビューを通して思った。世の中をより良く変えたいと思ったら、自分のいる場所で、出来る役割で、周りの人を喜ばせたり笑顔にする仕事を一生懸命する。その場所の人たちが幸せそうになれば、またその周りもよき伝染に繋がっていく。「美味しいもの」だけでなく、いろんな仕事を通じてその「愛の使者」のヒントは活かせるのだ、と。

 この時代、いろいろなものが頭打ちになり、耳に入ってくるのは「お金・お金」にまつわる渋いニュースばかりで気持ちが萎えそうになるが、感情に任せて嘆いていても何も始まらない。まずは、自分が関わっている今の仕事。その仕事の向こうで誰が喜び、誰が助かり、誰を楽しませることが出来るか、その先にある「絵」を描いて、自分の幸福の閾値を自分で高めよう。

 哲学者のアランも「幸福論」で言っている。
 「悲観主義は感情で、楽観主義は意志の力による」と。

(インタビュー後記 村井裕子)

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