2月12日放送

 「あなたの宝ものは何ですか?」
 インタビューが終わった後で必ずそう訊ねることにしている。
 「そうですねぇ」と思索を巡らせ湧き出てきた言葉を拾い、私の感じた思いも加えた文章にしてまとめ、番組の中間にその「宝ものコメント」をナレーションで挿入する。
 「宝もの」という漠とした問いかけだが、形あるもの、無いもの全部ひっくるめた中から掘り起こしていくと、その人の「価値観」のようなものが立ち上がってくる。その人らしさがひょっこり顔を覗かせるのだ。

塚田敏信さん 今回のゲストは、まち文化研究所主宰の塚田敏信さん。
 高校の先生を定年退職後、街の良さ再発見をライフワークに、まち文化講座や著作を通して、暮らしの文化の再確認の必要性を発信している。
 「まち調べ」として、溢れる好奇心と熱いエネルギーで各地の取材をこなしている塚田さんの「宝ものは?」。
 即座に返ってきたのは、「それは、やはり、人との繋がりですね」という答え。
 好奇心を持って、「なんでだろう?」の気持ちで話を訊きに行く、その、足を運んで人に会いに行って初めて得られるかけがえのなさが、宝ものなのだという。
 「銭湯であれ、名物名産の食べものであれ、そこには必ずそれを苦労して作り出したり、守ったりしている人がいる。その人と会い、話をすることで、何かが『呼応し合う』。その手応えが何ものにも代えられない」と。
 「今は、座ってインターネットの画面を見ていると、いろんなことを知ったような気になってしまうけれど、その背景を見る習慣をつけることを忘れてはならない。実際に人に当たってみることをして、初めて本当の面白さや生きる知恵が手に入る。それを、子どもたちにも伝えたいのです」
 面と向かって話をし、「呼応する」ことで大事な何かを得ることができるということが塚田さんの大切な価値観ということが伝わってきた。
 その生のやりとりで得た、暮らしのひとつひとつが、まちの「文化」なのであろう。音や匂いまでが立ちのぼってくるような、人のぬくもりなくしては語れない暮らしの文化。

 実際に、高校生の教え子たちにこの「まち調べ」を課題として取り組ませた時、彼らは目に見えて変わっていったそうである。いわゆるアポイントを取るところから始め(これが結構やっかい。取材目的を的確に相手に伝えなくてはならないし、機嫌の悪い対応などされたらどうしようというドキドキもある)、その上で実際に出掛け、それこそ人と生のやりとりをした中から何かを掘り起こしてレポートするという課題に取り組むうちに、「知らなかったことを発見する」面白さに目覚めていくという。
 例えば、昔の名残が残る対面販売の「市場」。コンビニやスーパーなど無言で買い物する若者たちの日常には馴染みが無くなっているが、そこでは、コミュニケーションをする中で値段が下がっていったり、やりとりによっておまけが発生するという文化があったことに改めて触れる新鮮さを学生たちは覚えたという。日本の暮らしの文化の再発見「まち調べ」は、自分たちで動き、人の間に入って生身の情報に触れることで、達成感も感じることが出来るのだという副産物も得られるのだ。

塚田敏信さん 「取材」の鉄則である。
 「足で稼げ」「じっとしているな」「思い込み、わかったつもりになるな」「決めてかかるな」「必ず人に会って話を訊け」。
 新聞にしろ、放送にしろ、徹底して叩き込まれる、「発信」するものの心得だ。
 人と会うことで、何かが「呼応し合う」。
 改めてこの「呼応」というキーワードは、今の時代大事だな、深いな、と感じた。

 そんな話を終えて雑談になった時、40も後半のベテランディレクター氏がしみじみ呟いた。
 「放送に携わる若い人たちに、是非とも聞かせたい話だなあ」。
 私も同感だ。

(インタビュー後記 村井裕子)

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