1月22日放送

 人には得意なことと不得意なことがある。
 私は子供時代、何に目を輝かせ、何に後ずさりをしていただろう・・・。
 得意だったことはよく覚えている。国語の本読み、図工、人形の洋服作り、持久走。「上手だね、すごいね」と大人が喜ぶのが嬉しくて、加速度的に得意になっていった。
 苦手だったことも、よく覚えている。私にとっては算数。これまた、加速度的に頭を悩ませる怪物だった。
 算数の得意な人と頭の働かせ方がきっと違うのだ。私は余計なことを考えてしまってどつぼにはまる。今でもありあり思い出すのだが、「0×1」や「0×5」といったゼロの出てくるかけ算が、3回テストして3回とも間違えた。答えは勿論どちらも「0」なのだが、私の答えは「0×1=1」「0×5=5」なのである。だって、答案用紙上にすでに「1」が存在し、「5」が存在しているではないか!すでに存在している「1」や「5」なのだから、「0」を掛けてもその数字は残るのだ、と。(「それなら、0×5と1×5は同じ答えなのかいっ?!」・・と突っ込みを入れられそうなお間抜けエピソードだが、「すでにそこにあるもの」に囚われていたその考え方は、密かに今でも好きだったりする)
 そんな「計算脳」からほど遠い身であるからして、暗算が速い人とか、大勢の割り勘の計算をちょいちょいっとやってしまう人とか、そろばんの珠を慣れた手つきでしゃーっと華麗に揃える人を見ると、「頭の使うべきところをフルに使っているな」と素直に感心する。

若松尚弘さん 今回の「ほっかいどう元気びと」のゲストは、全日本珠算選手権大会で個人総合競技優勝者の若松尚弘さん。しかも、大会唯一の満点獲得。しかも、24回目の挑戦で見事栄冠を手にしたというのだから、私にとっては超人だ。
 訊けば、ご両親の影響で5歳の頃からそろばんを習い、毎日練習を欠かさず、今回優勝した憧れの大会には中学時代からチャレンジし続けたというのだから、計算脳を鍛錬し続けた百戦錬磨の賜物なのだろう。
 今回のインタビューで、「そろばんの魅力は?」とか「そろばんや暗算の練習を重ねることで、計算が速いだけではないどんな潜在能力が磨かれるのか?」といった質問をさせてもらったが、「改めてそう訊かれると・・・」と何度か考えを巡らすための沈黙があった。

若松尚弘さん そうなのだ。若松さんにとっては物心ついた頃からすでに生活の一部、「あなたにとってご飯を食べることはどんな魅力がありますか」とか「ご飯を食べることで、あなたの身体はどう作られますか」と同じような問いかけだったのかもしれないと、後で思ったものだ。
 小さな頃からの環境で、すでにセットアップされている「計算の脳」。それを日々鍛錬していくことで、若松さんの能力は到達点の値を超えて尚伸び続けてきたのだろう。
 人間の脳は、100歳になってもまだ全体の7割位の神経細胞が残っているということを聞いたことがある。使えば使えるのに、到達点まで達していないまま待機状態にある細胞がまだまだあるというのだ。
 持っているのに使っていない。何と勿体ないことだろう。
 ということは、「算数の得意な人と頭の働かせ方がきっと違うのだ」なんて諦観などしていないで、とにかく苦手なことにもどんどんチャレンジしていけば、きっと全体の機能もアップするということに繋がっていくのかもしれない。
 私の場合、意識して鍛えてきた「言語脳」をこれからももっともっと磨きたい。そして今まで手つかずの最も未知なる「計算脳」を鍛えたとしたら・・・もしかして、全く違う自分にこの先出会えるかもしれない・・・などと思うだけで、年を重ねるのが楽しみになっていく。

 「ほっかいどう元気びと」を通じ、様々な分野で一生懸命な方々に出会えている。お話を通して感動したり、共感したり、新しい発見があることで、私の興味のアンテナは刺激され、どんどん本数が増えていく。
 人の脳は、なにより感動することで最も活性化するという。そんな良き感動を、ラジオを聞いてくださっている方々と分かち合える瞬間が増えていったら、こんなに嬉しいことはない。

(インタビュー後記 村井裕子)

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