1月15日放送

 先入観や思い込み…私の中にも数限りなく、ある。
 例えば、100年続く老舗の飴店のご主人といえば、年代物の木造建物の中、頑固一徹で無口な職人が、日本手拭いで汗を拭き拭き古びた鍋の中の熱い砂糖をかき回す…そんなイメージを勝手に思い描いていた。

高久文夫さん 今回、小樽の「澤の露本舗」の三代目店主高久文夫さんとお話しをしてみて、やはり世の中は日々変わっている、いや、変わっていかなければいけないのだな…ということが第一印象だった。
 高久さんは会計事務所に勤めるサラリーマンの経験を経て、39歳の時に、祖父の代から続く老舗飴店を継いでいる。受け継いで真っ先にしたことは、もちろん伝統の「水晶あめ玉」を作る技術は勿論だが、古くなっていた店の改修と器具などを新しくする設備投資といった、いわゆる店の立て直し作業に取り掛かったという。
 衛生管理が厳しく求められている時代、工場に虫が一匹飛んでいても大変と、借金をして改築し、さらに合理的にできることはないかといろいろな方法を模索したという。
 まさに、「マネジメント」でお馴染みドラッカーの言う、顧客にどう満足してもらえるかを重視した「イノベーション=革新」は100年続く老舗の飴店でも必要不可欠ということなのだ。

 高久さんは、さまざまな業種の経営者の人達とかかわることが出来た会計事務所の経験が役立ちました、と言う。何事も、経験したことで無駄なことはありません、と。
 若い人達に是非聞いてほしい言葉だなと私も共感して聞いていた。
 常々思っていることだが、何か取り組むものに対し真剣に向き合い、自分の中の潜在能力を存分に発揮した人は、たとえ別のことをすることになっても一定以上の力が出せるのではないだろうか。それは、人間の経験力の奥深さといったものか。何事においても一所懸命向き合えば、人としての基本的な土台作りは可能ということでもあるのかもしれない。

高久文夫さん 会計事務所の経験を生かし、100年の老舗の土台の見直しから手がけた高久さん。
 もちろん、祖父、父親といった代々が手塩にかけて作り続けてきた「水晶あめ玉」の品質へのこだわりにも並々ならぬ情熱を注いでいる。伝統のこの飴は水飴を使わず砂糖を原料としているが、同じ砂糖でも、「水晶あめ玉」のように透き通った飴にするためには適するものとそうでないものがあるとか。商品を売る側として当然と、砂糖工場の研究室まで出掛け、徹底的に吟味をしているという。飴玉ひとつへも妥協を許さない姿勢が老舗を受け継ぐ者の矜持なのだろう。
 「孫が食べられないものは作りませんから」
 そう話したときの、ふっと緩んだ柔和な笑顔が、「良きおじいちゃん」としての素顔を覗かせた。

 2011年の4月からスタートしたこの番組「ほっかいどう元気びと」では、高久さんも含め、すでに42人の方にお話を聞かせていただいている。
 つくづく思うのは、何かに取り組み続けている人は、語るべき言葉を持っているということ。それは体験の中から気づき、編み出した三者三様オリジナルの言葉である。
 だけど、そのそれぞれの姿勢は皆、とても似ている気がする。
 真っ直ぐな姿勢で、目の力があって、しかも優しい。
 言葉を当てはめるとすると、それは「真摯さ」といったようなものか。

 そう、ドラッカーも「マネージャーの資質」に必要なものとしてこう語っている。
 「マネージャーにできなければならないことは、そのほとんどが教わらなくとも学ぶことができる。
 しかし、学ぶことのできない資質、後天的に獲得することの出来ない資質、始めから身につけていなければならない資質が、一つだけある。才能ではない。真摯さである」と。

 今この2012年、「真摯に」という言葉が、姿勢が、なぜだろう・・・心に深く響く。

(インタビュー後記 村井裕子)

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