1月8日放送

 あるひとりの青年が、1冊の本に触発されて旅に出る。

アルケミスト その本の名は、パウロ・コエーリョ作 山川紘矢・山川亜希子訳で多くの人たちに静かに読み継がれている「アルケミスト~夢を旅した少年」。
 羊飼いの少年が、夢を信じてアンダルシアの平原から旅に出、賢者や錬金術師(アルケミスト)達との出会いと導きで人生の知恵を学んでいくという、「星の王子様」とも並び称される物語だ。
 ある時ふと手にしたこの本の中に自分を支える言葉が沢山詰まっていることに感動した青年は、羊飼いの少年が旅立ったそのアンダルシアの地に身を置くべき旅を敢行。旅の友は、もちろん何度も読んだリュックの中の1冊「アルケミスト」。
 道中、観光地でも何でもない所でバスを待っていると、ひとりのアジア人らしき男性に出会う。声をかけてみるとその男性も日本人。なぜ此処を旅しているのかと訊ねると、男性のリュックの中から「アルケミスト」の一冊が!聞けば、やはり「アルケミスト」の世界に心を動かされ、アンダルシアの平原を辿りたかったと、と。
 意味のある偶然の一致。
 青年は、すっかりその男性と意気投合し、その本に書かれた奥深さを語り合いながら、「本というのはただ読むものだけではなく、人と人とを結びつけてくれる道具なのだ」と、人生のあるひとつの大きな喜びを自分のものにする。・・・・

 私はこういった類の話が大好きだ。
 こういう体験は心の中でとてつもなく刺激的な気づきの「発火」をする。
 『意味のある偶然の一致』。私も、こういったシンクロニシティ(共時性)を若き頃に何度も体験し、「それはなぜ起こるのか?」が知りたくて何冊も本を読んだ。読んでいるうちにもどんどん「偶然」がもたらしてくれる出会いは、確実にその時の私にとって「必然」と実感出来ることばかりで、その真理を解明したく、読む本が次々に繋がっていった。
 心理学者のユングの本を読んでもその肝心の「なぜ?」は解らず、何年もその思いを持ちつつ過ごしていたが、ある時、再びユング関連の本を読み、ふと長年の疑問が解け、胸の中をすんなり落ちていった瞬間があった。
 『意味のある偶然の一致』。「それはなぜ起こるのか?」の根拠が大事なのではない。人がこの宇宙に生きている中で「それは確かに無数にあることなのだ」と受け入れることで物事に対する考え方が柔軟になる、それこそが大事なことなのだ、と。
 真摯に生きていると何かが力を貸してくれ、必要な何かに出会うことが出来るのだということを信じられると、生き方をも柔軟になる。「目に見えないもの」を信じるか、信じないか。その差によって、未来への生きる希望や幸せの感じ方が大きく変わってくるのだ。
 私が気づいた考え方は、正しいか否かはわからない。なにせ、オリジナルの「ムライズム」。だけど、体験と思索の末に自分でみつけた「幸せな生き方観」によって、心は遙か遠くを見渡す清々しさに溢れるようになった。「誠実に、真っ直ぐに思いを持ち続けていけば、未来は思い煩うものではない」、それは、自分の中で揺るぎない普遍だ。

森田拓愛さん 私はその「アルケミスト」に感動して旅までしたという青年、ビブリオバトル北海道の実行委員のメンバー森田拓愛さんに会うのを楽しみにしていた。
 スタジオに入ってきたその瞬間から、森田さんがアンダルシアまで持っていった「アルケミスト」と、私が自分の本棚から持参した私にとっても愛読書である「アルケミスト」とをつき合わせて、話は本の持つ力に、出会いの妙に、身につけたい生き方にと繋がっていった。私の半分しか生きていないのに、不思議なことに「キーワード」がとても似ている。きっと、同じような本を読み、同じようなところに感動しているに違いない。
 森田さんは、ビブリオバトルという知的書評合戦の体験を通して、自分の本の世界が広がり、思っていることを相手に伝えるという自己表現力が確実に付いていったという。なるほど、インタビューの答えは、こちらが驚くほどの的確なコメントで、声には思いがのり、好ましい若者らしい表現力に溢れていた。

森田拓愛さん 森田さんは、北海道でのビブリオバトルの定着に尽力し、その面白さと必要性を伝え、そして、今年の春、東京で社会人としてのスタートを切る。
 これまで本の中から沢山自身の引き出しに仕舞われたであろう多くの知恵、そして、行動を起こすことで体験し、気づいていった生きる力をフルに使いながら、自分の人生を切り拓いていくことだろう。
 新しい旅立ちにエールを込めて、森田さんに「アルケミスト」の中の言葉を贈ろう。

 「何かを強く望めば宇宙のすべてが協力して実現するように助けてくれる」
 そして、「前兆に従うこと」
 そう、目に見えるもの、聞こえるもの、触れるもの、出会う人のすべては、自分が前に進むための煌めくメッセージ。

(インタビュー後記 村井裕子)

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