11月6日放送

 「北海道タイムサービス」・・・もし、私が優れた筋書き作りの小説家であったなら、主人公の勤める小さな商会の屋号にするかもしれない。
 主人公N氏は、時計台の近くのビルの一室にある勤め先の小さな窓口で客を待つのが仕事。やってくる客は、N氏にこう言う。
 「失われた時間を取り戻してほしい。○年前のある日を丸ごと1日購入したいのだが、見積もりを出して貰えないだろうか」と。
 N氏は慣れた手続きで、その客の人生の中の失われた時間を取り戻す仕事に取りかかる。そう、彼は「タイムサービス屋」。
 小説としては、ここからが面白くなっていく・・が、そう、私は星新一でも村上春樹でもなかった。小説としては、ここからが面白くなっていく・・が、そう、私は星新一でも村上春樹でもなかった。

中野雅隆さん 閑話休題。この「北海道タイムサービス」という屋号は、今回のゲスト、時計職人である中野雅隆さんが52歳で同年代の3人の職人とスタートさせた時計修理工場の名前だ。
 毎日毎日、ピンセットを握って小さな部品と向き合っているが、この掲げる屋号に、クロックとかウオッチではなく、「タイム」を「サービス」とつけたところが中野さんらしいと思う。50代になってから、もう一度子どもの頃に憧れていた仕事に戻って、充実感ある仕事を続けている中野さんだからこその夢を感じるのだ。

 中野さんがこれまで過ごしてきた時間は、ひとつのストーリーだ。
 子どもの頃、時計職人だった父親に憧れ、同じ道を目指す。中学二年の時にお父さんは病気で他界。その前年にお父さんは入学祝いとして、中学生が持つには高級過ぎるほどの黒革の腕時計を中野さんに贈っている。初志貫徹、時計専門学校で技術を身に付け就職。世界に通用する職人を目指し、最難関の公認高級時計師の資格の挑戦し、合格。しかし、その職人としての証を得たまま大手国産時計メーカーの営業に転職し28年営業マンとして活躍する。偶然だったそうだが、父親から贈られた時計はそのメーカーのものだったという。52歳、自分はこの先どう生きるかのターニングポイントで、「歯車が大好きだった原点に立ち帰ろう」と、職人に戻ることを決心して組織を離れ、やはり同年代の仲間数人と時計修理工場を立ち上げる。

中野雅隆さん 中野さんのストーリーから、私は、いくつになっても自分の夢を思い出すことの、そして、あきらめることなく追い求めていくことの尊さを感じた。自分は何になりたかったんだっけ?何にわくわくし、何をしていると時間も忘れて没頭していたんだっけ?そうやって原点にたち戻って、自分の中の宝を発掘する大事さ。
 そして、若いうちに、感じることがあれば何でもやってみることの大切さ。手に職でも、技術でも、自分が好きだと思うことはチャレンジしてみて身に付けること、それが、後々の自分を支える大きな力になることもあるかもしれないのだ。

 自分の人生の時間のタイムスケジュールを立てるのは、他ならぬ自分。思いがけないことがあったとしても、それを調整するのも自分。巻き戻したい時間も、やリ直したい日々も、折り合いを付けながら、埋めていくのも自分なのだ。
 いや、しかし、失なわれた時間などないことにも気づく。
 すべてが意味をもって積み重なる。無駄なものなどひとつもない。積み重なるのだ。流れていくのではなく。

 中野さんは、そんな誰かが積み重ねた「時」が宿っている時計の修理に日々、せっせと向き合っている。
 「北海道タイムサービス」という名の、腕に誇りを持つ職人の気概あふれる時計修理工場で。

(インタビュー後記 村井裕子)

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