8月7日放送

 「あなたの生き方、ゴルフのスコアメイクに喩えると・・・?」
 最近の私のお気に入りの問いかけ。身近な人に訊いては「なるほど」と頷いている。
 先日、久しぶりに後輩達と楽しいお酒を飲んだ場で、問いかけてみた。
 30代前半の女性。「私は、手堅くパーを取りに行く。それ以上は性に合わないことがわかっているから」。彼女は、周りの風景をも楽しむことを第一に、余力を残したままマイペースで進んで行くタイプだ。
 40代の男性。「ここは、手堅くパーを取っていこうというところと、ここは攻めてバーディを取りに行こうというところ、見極めて行きたい」。さすが、組織の中堅どころ。安全に行くところとちょっと冒険しようというところを見極めようなんて、憎らしい技をいつのまに身につけたか。
 一方、30代になったばかりの伸び盛り男性。「僕は勿論、バーディもアルバトロスもいつかは狙いたい。でも、今の実力を考えて、ひとつひとつ丁寧にパーを取っていこうと思います。だけど、時々、欲を出してバーディ狙って、池ポチャになるんですけどね~」で、一同爆笑。
 ゴルフは深い精神性のスポーツと言うが、人生に喩えてみると、実にその人らしさが出てくるので面白い。誰かがぽつりと言った。「あの、池とかバンカーって、いかにもここに入ってくださいっていうところに絶妙に設計されているんだよな~」。
 それもまた、人生の難関と同じである。
 ちなみに、私は、たえず自分に負荷をかけながらバーディを目指していく人生を送りたい。「パーでいい」と思ってしまうと、マグロが泳ぎを止めてしまうような、自分が自分で無くなってしまいそうになるのがいやなのである。

  実はこの人生とゴルフメイクの喩え、今回のゲストの新人作家・又井健太さんが子供の頃に、お父さんがお風呂場で語って聞かせた話だそうだ。
 ゴルフはホールインワンなんかめったに出ない。いかに、バーディをくり返していくかだ。人生もそうだよ、と。
 私はこのお父さんの喩えにいたく共感したが、又井少年はちょっと違ったらしい。
 「やっぱり、僕はホールインワンかアルバトロスがいいな」

又井健太さん 世間的には、「あの」慶応大学を卒業し、映画監督を目指して「せっかく」大手映像会社に入ったのに、又井さん曰く「隣の上司を見て、行く末が見えてしまい」、10ヶ月で辞職。10いくつもの転職をくり返す挫折続きの20代を経験する。
 鎧のようだったプライドを打ち砕かれ、心も病み、自暴自棄にもなり、とことん自分と向き合って最後に残ったのは「書く」という表現方法。これまでの経験を元に書いた小説が、今年度の「角川春樹小説賞」を受賞という快挙に繋がった。
 つまり、手堅い一打一打では生きている実感が掴めなかったひとりの青年の、起死回生のホールインワンの快挙である。

 自分をぼろぼろにしてまで何かを求める生き方に、どこかで収まりをつけても良かったのではないかと、つい母親目線で案じてしまう又井さんの20代なのだが、話を聞いてひとりごちた。小説賞を受賞した今現在を起点にしてその波瀾万丈の日々を振り返ってみると、又井さんの人生の中で「小説家」という到達地点はすでに決まっていて、すべての出来事、すべての経験が、その準備をさせるものだったのだろう・・と。
 自称ガリ勉エリート青年が、夢のために定職を手放し、辛酸をなめ、痛みを伴いながら自分の組み替えをする日々。たぶん、普通の人は避けて通る体験や思いを修行のようにさせられることで、又井さんの発信したい思い、渇望して求めていた「表現をする」潜在能力がどんどん引き出されてきたのだろうと思う。そして、ひ弱だった生きる力をも鍛えられたのだ。

 「何が君のしあわせ 何をして喜ぶ わからないままおわる そんなのはいやだ!」
 若き又井さんが大手企業を飛び出したのは、偶然耳に入ってきたアニメ「アンパンマン」の歌詞に突き動かされたのがきっかけだったそうだ。
 「何が君のしあわせ」かは、誰も教えてくれない益々迷いの時代。
 人それぞれやり方に違いがあっていいが、進むにしてもとどまるにしても、とにかく自問自答をして自分で答えを出すことが大事なのだ。たとえその結果が泣きたいほど困難だったとしても、自分で選んだのなら納得できるから。

 自分の人生のスコアメイクを構成するのは、誰でもない自分。
 全力で、そして楽しみながらフェアウエイという人生を歩いていこう。ホールアウトのその日が来るまで・・。

(インタビュー後記 村井裕子)

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