6月26日放送

南孝輔さん 本屋でたまたま手にとって読んだ本が、後になってその本に巡りあった理由がわかったり、絶妙なタイミングで何かを準備させられた1冊だった・・という出会いがよくある。
 重松清さんの小説「青い鳥」(新潮文庫)が、まさにそんな1冊だった。
 物語の主人公は中学校の先生、「村内先生」。
 吃音というハンデキャップがありながら、「学校にはいろんな先生がいたほうがいい。生徒にもいろんな生徒がいるのだから」という静かで強い意志を持ち、生徒ひとりひとりに寄り添っていく。
 「今、君に会えてよかったな。間に合ったな」と言いながら。
 心に傷を持って殻に閉じこもっていたり、思いをうまく話せない、そんな少し不器用な生徒達の心に。
 村内先生は、カ行とタ行と濁音が苦手で、「おはよう、ごっごっごっざいます。きょ、きょ、きょうは・・」などと、どもってしまう。
 でも、その言葉のひとつひとつはちゃんと人の心に届くのだ。
 「うまく喋れないから、大切なことしか言わない。
 本気で言わなければいけないことは、本気で言う。
 だから、言いたいことはちゃんと伝わるんだ」
 そう村内先生に言わせる原作者の重松清さんの信条が透けて見えて、大事なことは何かが静かに胸に迫ってくる。
 重松さんも吃音という発音のハンデを持っていると、あとがきに書かれていた。

 今回「ほっかいどう元気びと」で、北海道言友会の南孝輔さんにインタビューすることになり、プロフィールを拝見してちょっと驚きだった。ちょうど「青い鳥」を読み終えたところだったからだ。
そこには「もうひとりの村内先生」が、いた。

南孝輔さん 南孝輔さんは、札幌市内の小学校の先生。
 言葉や聞こえに不安のある子供たちの「言葉の教室」にも尽力されている。
 ひとりひとりに寄り添い、自分が経験した、言語の不安を周りに見て見ぬふりをされた孤独な思いをさせないように、子供の心に向き合っていらっしゃる。
 ただ、「村内先生」と違うのは、南さんは、子供の頃の吃音を努力と工夫で克服していること。とても柔らかい話し方で、適切な言葉選びで、ラジオのマイクに語りかけてくれた。
 言葉が詰まってしまうのをどう克服されたのか伺うと、高校の時に合唱部に入ったのがきっかけだったそうだ。
 吃音を直す方法の1つとして、歌を歌うということがあるそうだが、皆と声を合わせて歌うことで言葉の詰まりが解消されていく場合があるという。歌はしっかりと腹式呼吸も身につけられるという効用もあるようだが、この「コーラス効果」で言葉の発し方が楽になっていったと、南さんは話してくれた。
 そして、いろいろなことを受け入れられるきっかけになったのが、40代に「北海道言友会」と出会ったこと。同じ悩みを持つ仲間と語り合い、共感し、活動をすることで自分の吃音を乗り越えると同時に、大人の100人に1人はいるといわれる吃音で悩んでいる人たちの力になりたいと、南さんは心を固めていく。
 「だって、言葉の出し方が他の人と少し違うだけで、自分を精一杯生きられないなんて、辛すぎるじゃないですか」と南さん。
 学校の先生を退職後は、言葉の不安を持つ人たちの現状を変えていくために、ボランティアで携わっていきたいと、熱く語ってくださった。

 アカデミー賞の作品賞などを受賞し、話題を集めた「英国王のスピーチ」は、吃音に悩みを持っていた英国王ジョージ6世の実話だそうだが、妻のエリザベスが最大の理解者として彼の吃音に寄り添い、支えていた。そして、克服のために共に歩いてくれたスピーチの先生が、のちに彼のかけがえのない友人になっていた。
 南さんの宝ものも、家族であり、仲間だそうだ。
 誰かがしっかり受けとめてくれる。
 聴いてくれる。
 受け入れてくれる。
 それこそが、人の不安をひとつひとつ取り去っていくことなのだ。
 言葉によって人と人とが繋がれないことで、孤独はどんどんその井戸を深く掘っていってしまうから。

 だけど、実は、それが意外と難しい。
 だからこそ、その大切さを忘れないでいたいと、改めて思う。

(インタビュー後記 村井裕子)

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