6月19日放送

 「阪神淡路大震災復興支援 1000人のチェロコンサート」。

土田英順さん そんなすごいコンサートが、震災から3年後に神戸で行われていたことを「1000の風 1000のチェロ」といういせひでこさん作の絵本(偕成社)で初めて知った。遅ればせながら去年のことだ。
 プロ・アマの垣根無く、子供からお年寄りまでチェロの演奏家達が全国各地から集まり、復興の祈りを込めて心にしみるメロディーを奏でたという。
 ご自身も1000人の中のひとりとなってチェロを弾いたといういせさんのあとがきにはこんな文章が綴られていた。
 「人間の形をした楽器 人間の声で歌う楽器-チェロ
 チェロを弾く人の姿は 私には人が自分の影を抱きしめているようにみえてならない」
 人の深い思いが音になり、それをシンクロさせて一心に奏でることで、救われた人が数多くいらっしゃったことだろう。
 いろいろな復興支援があるものだとしみじみ思う。

 今回のゲスト、チェロ奏者の土田英順さんも、この時、神戸で1000分の1として演奏されていたそうだ。
 「1000のチェロってどんな感じでしたか?」と伺うと、「それはすごいものだよ。指揮者ひとりを囲んで1000のチェロ。チェロの音の洪水のようだった・・」と英順さん。
 今回、東日本大震災の直後も、英順さんは何かやらなければいけないという思いに突き動かされ、ご自身のブログで「僕の演奏を聴いて感動してくれる人がいるならどこへでも行きます。呼んでください」とチャリティーコンサートを呼びかけた。
 たった20席ほどのカフェから数百人のホールまで、道内あちこちからのリクエストを受け、各所に赴き、義援金を集めるコンサート行脚を続けている。
 チェロを担いでどこへでも。
 英順さん、今度はひとりで、熱い風を起こしているのだ。

 そのスケジュールは、若い演奏家でも敬遠するようなハードなものだ。北海道は広い。どんな思いで演奏なさっているのか伺うと、こんな言葉が返ってきた。
 「義援金を集める目的は勿論だけど、北海道の74歳のチェロ弾きがあっちこっちと飛び回ってチェロを弾き続けている姿が、何かの折りに被災地の人たちに伝われば、それが一番の励ましになると思ってやっている」
 聴いていた私のイメージの中に、「自分の影を抱きしめるようにチェロを抱えた」老チェロ弾きが風のように現れ、切なくも優しいメロディーを奏でている姿が浮かび、熱いものがこみ上げていた。
 気概溢れる歳の重ね方に背筋がきりりと伸びる思いがした。

 「音楽の力」という言葉をこのところよく耳にする。
 震災から3ヶ月経った今、被災者の心を励ますために益々それが求められている。
 それはどういう「力」なのだろう。ずっと考えていた。
 英順さんのお話を聴いていて、何となくその一端が分かったような気がした。
 音楽を聴くことで心が落ち着いたり、励まされたり、前に進む力を貰うというのは、音楽を送り出す側の人の、コツコツ人知れず努力する姿勢や、育んだ深い思いやりや、その生き方までもが丸ごと昇華し、結集して伝わるからなのではないだろうか、と。
 そんな、とてつもなく積み上げたエネルギーが「音楽の力」として、聴き手の心の琴線を震わせるのではなかろうか、と。

 凄い仕事だなあとつくづく思う。
 震災直後、音楽に携わる人たちが口々に「無力だ」というのを聞いた。破壊されたものが大きすぎて、日本中のあらゆる人-様々な力を持つ人でさえ-が心を痛め、立ち尽くしているのだということがつくづく感じられた。
 数学のようにはっきりとした答えがあるわけではない。でも、その積み上げたエネルギーの強さを思うとき、音楽の持つ「力」は「無」などではない、きっと悲しい心の人たちに寄り添えるはずと、羨ましくさえ思う。
 翻って、「じゃあ、私には何が出来るのか?」と突きつけられて、自問自答の日々が続いている。

土田英順さん 土田英順さんの復興支援コンサートは、「ボストンバッグにチェロと酒」というブログでその日程を確認することが出来る。是非、お近くのコンサートに足を運んでいただきたいと思う。
 恒例の「あなたにとって宝ものは何ですか?」の質問をしてみると、間髪入れず「それはもう、チェロです」と答えが返ってきた。ごもっとも。
 その、チェロ弾きにとって命と同じくらい大切なチェロだが、演奏会に忘れていったというエピソードが演奏家達の間で有名な伝説になっているという、ちょっとお茶目なキャラクターも最後にばらしてしまおう。 
 奥様の機転で本番には間に合い、事なきを得たという一件だったそうだ。
 ご本人曰く、「忘れっぽくて、おっちょこちょい」という一面もお持ちだ。
 そんなキュートなお人柄ということも含みながら英順さんのチェロを聴くと、また味わいも倍増するに違いない。

(インタビュー後記 村井裕子)

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