5月15日放送

あべ弘士さん 旭山動物園のホームページを毎日開いていた時期がある。
 お気に入りは、動物の行動をそのまま映してくれるライブカメラ。大好きなホッキョクグマに会うためだ。プールの中をのんびり泳いだり、顔を出したり。時々、にんまりと笑っている(・・ように見えた)表情に出会うと、こちらまでほっと笑顔になった。
 1分1秒に神経を使うアナウンサーの仕事をこなしていた頃の、ほんのひとときの大切な息抜きの時間だった。旭川の旭山にこんなでっか~い生きものがいて、それが平和そうに、しかも超然と暮らしている。泳いで、食べて、眠って、また泳いで。そんな存在を確認するだけのことが、なぜか嬉しかった。とにかくわくわくしたのだ。

 その、動物たちの本来の行動を見せる努力で日本で最も有名になった旭山動物園。困難な時期をも支えてきた職員達の中に、現在の絵本作家・あべ弘士さんがいた。動物園飼育係時代は、背中に「動物命」という張り紙が貼られているがごとく、仕事に没頭したそうだ。
 あべさんの数々の動物話を聞いていると、こちらの頭の中に、あたかもあべさんが手描きで何枚も絵を描いてくれているようにイメージが鮮やかに浮かぶ。しかも色つきで。
 絵も上手いが、話も上手いのだ。

 動物の中で一番好きだというカワウソとは、一緒に散歩もし、一緒に昼寝も(少しだけ)した。横にいるあべさんの作業服に、水浴び後の濡れた体をこすりつけてちゃっかり拭き拭き。器用な前足を使って作業服のボタンを外し、作業手帳を引っ張り出し、気づいたら水で洗ってしまっていた!「コイツ~!」と怒るあべさんに、すねるカワウソ。
 そんな遊び好きなカワウソは「遊びを仕事に。仕事を遊びに」の達人。あべさんの理想の生き方だ。 体重200キロのゴリラのゴン太は、夕焼けが空に広がると巨体をそちらに向けて、何とも至福そうな時間を過ごす。「美しい」と思う感受性を彼らも持っていることにあべさんは敬意を表する。あべさんいわく「ゴリラが哲学している時間」。
 オランウータンの雄も体がでかい。しかも岩山みたいにほとんど動かない。混雑したときの動物園では、「見物時間は3分でお願いしま~す!」なのに、お客さんに背中を向けたまま。「キャ~!こっち向いて~!」の声援をじっと背中で受け、「そうかそうか」の風情でやおら2分50秒あたりでくるりと振り向き、見栄を切る。まるで歌舞伎役者の顔見せの風情(!)
 「あいつら、わかっているんだよ」とあべさんは言う。動物だって嬉しいのだという。無視されるより声掛け。注目。かまってくれる人の優しさ。一緒にいる喜び。

あべ弘士さん インタビュー後、マイクを切ってからも飼育係時代のエピソードは続く。頭の中で紙芝居の絵がめくられるように次々に個性的な動物が行き交う。想像力ふくらむ贅沢な時間だ。
 この動物との濃い時間の積み重ねで鮮明になったイメージを、あべさんはせっせと紙に写し出し、そうして、130冊という絵本が次々と生まれたのだ。

 「絵、下手だな~。命通っていないじゃないか」
 「さては、ゆうべ、飲み過ぎたかい?」
 そう動物たちに言われないように、精魂込めてあべさんは描く。彼らの持っている素晴らしさ、不思議さ、深さを伝えようと。人が驕り高ぶってしまい、とんでもないことをしでかさないようにとの思いを込めて。

 あべさんにお会いして、益々私は動物が好きになったが、その動物たちに尊敬の視線を送る「人間・あべ弘士」のファンにもなった。
 この後、北海道の素晴らしさのひとつである「雪」をテーマにした作品も描いていきたいとの夢も教えてくださったが、きっと、これからもずっと北海道の真ん中旭川で個性溢れる沢山の絵を描き続けていかれるのだろう。
 私は、あべさんのような絵本作家が北海道にいてくれることが、とても嬉しいなあ、貴重だなあ・・という敬意を込めて、そして、同名のハンサムな俳優と混同しないように、密かにあべさんをこう呼ぶ。
 和名「ヒト科エホンサッカ エゾアベヒロシ」。

(インタビュー後記 村井裕子)

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