5月8日放送

伊藤博之さん 札幌の地下歩行空間が3月に開通し、その北2条に設置された情報発信の仕掛けを担ったおひとりであるクリプトン・フューチャー・メディアの伊藤博之さんにお話を伺った。
 伊藤さんと言えば、知る人ぞ知るバーチャル・シンガーのコンピューターソフト「初音ミク」を大ヒットさせた人。元々は、北海道大学の職員から、音楽好き、音好きが高じて新しいビジネスを起業した、いわゆる札幌のベンチャー企業の先駆けとも言える人物だ。
 伊藤さんを取り巻くあれこれは、とにかく「横文字」に溢れている。
 「デジタルサイネージ」「シティプロモーション」「ソーシャルメディア」・・・etc.
 資料を読んで、「あらら・・どうやって話を進めよう」と正直、頭の中でいろんな色の毛糸がこんがらがるような思いになった。
 私は、TV・ラジオで仕事をし始めてから、なるべく聴いている人に分かりやすい言葉を使おう、外来語を使いすぎないようにと心がけてきた。その言葉の雰囲気だけで「分かってしまうような気」になってしまうのが怖いのだ。最先端の取り組みは特に新しい言葉が多い。その複雑な色合いの糸をほどいて伝えるのが、今回のインタビューの役目だと思い、臨んだ。
 初めてお会いした伊藤さんに、「分かりやすく教えてくださいね」とお願いすると、ITのイメージを覆すあったかい笑顔で、とても誠実に話してくれた。
 「デジタルサイネージというのは、いわゆる『電子看板』でして・・家庭の液晶テレビのでっかいのだと思ってください。・・CGM、いわゆるコンシューマー・ジェネレーテッド・メディア・・つまり、『消費者が創り出す、メディア』。創る側も見る側もいろんなコンテンツ・・えっと、作品ですね、それを楽しむことが出来るんですね・・・」
 気を遣わせてしまった。アナログなねえさんに噛んで含めるように教えてくれる優しい弟のよう。戦時中の野球用語みたいになってしまいそうで、ちょっと申し訳なかった。

伊藤博之さん 人って、やはり話をしてみると面白い。
 私は伊藤博之さんに、「IT(情報技術)、ベンチャー(新事業)」といった「看板」を貼り付けてイメージしていたが、実際、お話をして感じたのは、なんとも人間味溢れる存在感。どちらかというと、自分の畑を朝な夕な耕して、楽しそうに作物を作っている「農業」のイメージさえ感じてしまった。そう、このひとも「種まきびと」だ。
 インターネットやデジタルといった最新鋭のものを道具としているが、求めているものは「共感」といった、人の心の中にある柔らかいもの。
 「人から出てきたものを、人が受け取り、心を震わせる」という、その形をもっともっとわかりやすく、伝えやすくするのが、伊藤さんの役割なのだと、お話を伺っていて伝わってきた。その先にあるのは、どんな「実り」なのだろう。北海道が、日本がどう熟していくのだろう。

 伊藤さんには独自の経営イメージがあるという。
 新しい事を始めるときに、これは「収益モデル」か「収穫モデル」かの見極め。
 「収益モデル」は、収益がしっかり立てられるもの。「収穫モデル」は、何かわからないけどやっておけば将来はいいことがあるだろう。要するに農業と一緒で、台風が来てだめになってしまうかもしれないが、思いのほかいいものが出来るかもしれないというもの。
 『初音ミク』も、最初は「収穫モデル」の心意気だったらしい。
 「収益モデル」だけやっていても面白くない、と言い切る伊藤さん。やっぱり、農業の精神の創造者だ。

 使い慣れた日本語であえて訊いてみた。「伊藤さんは、『何屋さん』?」と。
 「僕は、メタクリエイターです」
 ええっと、「メタ?!超越?」
 なんと言い換えよう・・「メタボ」でないことだけは確か。あ、いや、失礼!
 「クリエイターのためのクリエイターです」と、優しい弟のような説明を加えてくれた。

 ちなみに、「メタ」はギリシャ語から来ているらしいが、「めた」という副詞が日本語にあるのを辞書を引いて初めて知った。
 意味は、「度を超えてはなはだしいさま」。島崎藤村が『旧主人』という作品の中で「今年は、めた水に祟る歳だのう」と表現している。ギリシャ語の「メタ」と日本語の副詞「めた」。同じような意味というのが、面白い。

 毎週新たな発見と喜びの連続だ。
 私にとって、この『ほっかいどう元気びと』の仕事は、間違いなくその実りにわくわくする「収穫モデル」だ。

(インタビュー後記 村井裕子)

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