4月24日放送

 本屋さんとお話しする機会があったら、訊いてみたいことがあった。
 本好きの私は、何を買うかを決めずにフラリと本屋に入ることがよくあるのだが、棚の間を歩いていると必ず私を呼び止める本がある。
 「待っていましたよ。どうぞ、どうぞ今日は私を連れ帰ってくださいね」と。
 手にとって頁を開くと、その時考えていることの答えや、気づきを促してくれる言葉が、「そこにある」。
 私は何度、その答えに心を支えて貰ったり、方向を決めるきっかけを貰ったことか。
 ある日、新聞のコラムを読んでいると、それを「ライブラリーエンジェル」と名付けた人がいるとのこと。図書館や本屋には沢山の天使がいて、答えを求めている人のところに降りてきてくれるらしい。
 その出逢いがあまりにも求めていることとシンクロしたりするものだから、心理学者の「意味のある偶然」のテーマとも繋がるはずと、私も密かにその不思議を追い求めている。
 いったいどうしてそんな不思議な偶然が本屋で起きるの?どうして?

久住邦晴さん 札幌の街の本屋さん、くすみ書房の久住邦晴さんに訊いてみた。
 「それはいいねえ!僕は会ったこと無いけど、そんな思いで本屋に来て貰えると嬉しいねえ」
 勿論、「なぜだ?シンクロニシティー」の謎は解明出来なかったが、その後の久住さんの言葉のひとつひとつが、本というものの奥深さを大いに物語っていた。
 「本はね、作家の思いは勿論、編集、装幀、製本・・かかわっている人のすべての深い深い思いが込められているんですよ」「本の中にはすべての答えがあるんです」

 ご存じ、くすみ書房は「本屋のオヤジのおせっかい『中学生はこの本を読め!』」のフェアで経営危機を乗り越え、今尚、沢山のアイデアで本の魅力をアピールし続けている街の本屋さんである。久住さんには何度もターニングポイントがあり、久住さん曰く、「悩んだときはいつも本を読み、そこから答えを貰ってきた」という。
 「一番大きなターニングポイントを乗り越えたのは?」と伺うと、「今まで封印していたけど、息子の死を経験したこと」だと、その時の心の中を静かに紐解いてくださった。
 地下鉄東西線の延長で琴似駅周辺の客足が減りくすみ書房も経営危機に陥ってしまう、そんな折も折、久住さんは息子さんをご病気で亡くすという深い悲しみを経験されている。店の存続はそれ以上無理と、廃業の決意を従業員にも伝えるところまでいって、ふと頭をよぎった思いに気持ちを戻された。
 「今やめてしまったら、店をたたむことが息子のせいになってしまう!」
 それはいくら何でも息子に申し訳ないじゃないか。
 その悲しみと喪失感の中からの悲痛な決意が、もう少し本屋を続けてみようという原動力になった・・そう話してくれた。

 その原動力が、くすみ書房ここにあり!の数々のフェアを生み、人を呼び、他の街の本屋に刺激を与え、新たな危機をも乗り越えながら奇跡の前進を続けている。
 まるで危機に呼応するように、人との出逢いを引き寄せ、本から貰った発想の転換を行動に移し、何よりご本人の物事に対する真摯さが絶妙に組み合わさって起死回生をはかっていることに改めて驚かされる。
 「悩んだ末にふと降りてくるアイディアは、息子さんがお父さんへ贈ってくれているプレゼントでしょうか・・」と訊ねると、久住さん、ちょっぴり照れくさそうに、そして温かい白湯をゆっくりと味わうような深い声で答えてくれた。
 「息子はあまりアイデアマンじゃなかったけどね。でも、いつも近くにいる」
 いい本を届けたいとの思いで一生懸命奔走する「おせっかいな街の本屋さん」
 久住さんの中にこそ、ライブラリー・エンジェルは、いた。
 確かに、そこにいて、優しく背中を押し続けている。

吉田淑恵さん※久住さんお薦めの、今読みたい心がほっとする本。

◎『少女パレアナ』エレナ・ポーター著 村岡花子訳(角川文庫)
「何でも喜ぶ」ゲームで、人の心を溶かしていく孤児・パレアナの希望の物語。 

◎『だいじょうぶ だいじょうぶ』 いとうひろし作・絵(講談社)
おじいさんと孫の会話が温かい絵本。「だいじょうぶ だいじょうぶ」は、
「この世の中そんなに悪いことばかりじゃない」というおまじないの言葉。

手紙◎『はやくはやくっていわないで』益田ミリ作・平澤一平絵(ミシマ社)
読者対象が「0歳~100歳」!!

3月の震災後、皆が何かしら心が不安になっている今、さり気ない中に何かの気づきがある本をお薦めしたいと何冊かご紹介くださいました。大谷地に移転したくすみ書房で実際に手にとってみてください。

(インタビュー後記 村井裕子)

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