村井裕子のインタビュー後記

はじめに
毎週日曜朝9:30から放送の『ほっかいどう元気びと』では、様々な場で活躍している人たちへのインタビューを通し、「人が前に進む力はどこから出てくるのか」「人は逆境や困難な時にどんな発想で切り抜けるのか」など、それぞれが辿ってきた道のりから、その原動力にスポットを当てています。

東日本大震災が起こってまだ日が浅い2011年の春から、この番組は始まりました。
世界が大きく変わってしまった中で、私たち皆がひとりひとり、「自分は何が出来るのだろう」と様々なことを真剣に考えるようになっている中、この番組でも、「大事なことはなんだろう」「気づかなくてはいけないことはなんだろう」という視点で、これから先の前に進むヒントを探していきたいと考えています。

人の中には、自分でもまだわかっていない新たな「力」が隠されています。それは、順風の時には案外見つけられないもの。逆風だからこそ発揮出来るものがあるはず。

そんな、人の中の「宝もの」に光をあてることで発せられる言葉の数々に、ラジオをお聴きの皆さんと共感することが出来たら幸いです。

「村井裕子のインタビュー後記」は、対談後、そんな言葉の数々から、私自身が感じた「大切なこと」を毎週綴っています。番組を聴いた後に、その言葉たちをもう一度噛みしめる、心豊かな場になりますように。

8月21日放送

 私はフリーランスでアナウンサーをしている。365日の仕事管理も健康の維持も自分。すべて自由と言えば自由だが、季節によってはイレギュラーの仕事が集中し、想定以上の準備作業に追われなながら、「電源」をハイパワーにして乗り切る時期もある。
 この夏は7月がそうだった。いつものラジオ収録や各地の講座に加えて数カ所の「宮沢賢治の世界」の朗読や単発の仕事が重なった。好きな仕事を求めに応じてさせていただくのはほんとうに有り難いことと感謝をしながらモットーは全力投球。とは言え、やり切った達成感の後の消耗状態は、機織り後の「おつう」か、飛び疲れて羽がよれよれのトビだ。泥のように眠るので、目を閉じて、開ければもう朝。身体が痛い。何はともあれ食べるものを食べ、自己流で四股を踏んだりストレッチをしたり発声練習をして身体を起こし、家人に「とりあえず行ってこ~い!」と明るく送り出されて仕事に向かう。ところが、玄関を出る時はよれよれでも、不思議なもので現場に向かう途中でスイッチがパンッと入る。身体なんてどっこも痛くない。無いけど羽も軽い(気分)。そうやって全力で飛び回り、「巣」に戻って再び栄養と睡眠を注入。今日はこんな人に会えてこんな話を聴けたと収穫話でお喋りをして羽を休め・・・そして、また翌朝は、「身体が痛・・・」「行ってこ~い」で外に放たれ、再び元気倍増で帰ってくる。そんな「私という生きもの」。種類としてはかなり単純な生物に属するのかもしれないということに、最近・・・気づいている。

本田直也さん 8月の暑い盛りの今回も、「ほっかいどう元気びと」収録の現場で沢山笑い、知らなかったことが聞けて興味は尽きず、たっぷりとエネルギーをいただいた。
 お客様は、札幌市円山動物園の飼育員で学芸員の本田直也さん 40歳。爬虫類、両生類、猛禽類を専門として20年のキャリアを持ち、鷹狩りの技術の伝統的流派である諏訪流の「鷹匠(たかじょう)」にも認定されて10年が経つ。2004年から円山動物園で行われている「猛禽類のフリーフライト」の発案者でもある。
 動物園は「見て楽しい」というレジャーの場から、ここ十数年は、生きもの本来の習性や行動を間近で観察したり体験する場、そして、そこから生きものの生態にまで思いを馳せることが出来る場に変わりつつあり、更には、希少動物や絶滅危惧種の繁殖にも取り組み、多様な生物と環境についての研究も進めるなど、担う役割も大きくなっている。道民の身近な動物園の飼育員さんはどんな思いで仕事に取り組んでいるのか沢山の興味でお話を伺った。
 「今、円山動物園ではどんな役割ですか?」と伺うと、早速、本田さんから「鷹匠」についての思いが溢れ出す。動物園には毎年、鷲や鷹といった猛禽類が持ち込まれ保護され、その傷などを獣医が治療し、快復後に野生に放すということをやっては来たが、猛禽類は一旦飼育下に置かれると、体力も筋力も落ちてしまうので狩りも出来なくなる。必要なのは、野生で暮らせるように鍛え直すという適切なリハビリ。それが出来るのが「鷹匠」であると論文を読んで知り、本田さんはその技術を学んだのだという。
 最も猛禽類のことを知っているのが鷹狩りの伝統を持つ「鷹匠」の知恵と技。それ以前は、野生の鳥に対していいことをしているつもりでも間違った対処がひろくなされていたという。その反省を踏まえて、動物園としてもその技術を取り入れ、あくまでも鳥にとって最適な方法で管理をしていかなければならないと語る。
 「今までのやり方が間違っていたということも長い間にはあったということ?」
 「そうです。以前は、猛禽類のことを誰もほんとうにわかっていなかった。鷹匠だからそこに気づけるということなんです」
 「鷹匠」こそが、鷹が鷹としてどういったことが必要なのかを理解出来るのだそうだ。本田さんが大事にしたいのは、鷹をよく知る「鷹匠」の視点。それが真っ直ぐ伝わってくる。

本田直也さん 本田さんの365日は、動物園の勤務のみならず、プライベートでも鷹を飼い、冬場は愛犬と共に鷹狩りをし、自宅でも沢山の動物に囲まれていると言うが、まさに、三つ子の魂百までも。小学生の頃から部屋で爬虫類を飼育し、データを取り、繁殖を手がけ、爬虫類輸入卸の人の手伝いもしながら観察に没頭していたという。
 それは今に繋がる貴重な経験だったと話す本田さんは、現在、円山動物園で繁殖のエキスパート。これまでも「ヨウスコウワニ」などの繁殖に成功しているが、今年は、「エゾアカガエル」で「日本動物園水族館協会」の繁殖賞を受賞している。
 エゾアカガエルは札幌のどこでも見られる身近なカエル。繁殖はそんなに難しいのかと訊いてみると、雌雄のカエルを育てて卵を産ませる人為的な繁殖がとても難しく、それをいつでも出来る設備を整えるということが大事。円山動物園でそれを可能にしたということが意味のあることなのだと本田さん。そして、最も大切なことは、そうやって動物園が今のうちに繁殖の技術を身に付けておけば、もしこの近辺で身近な生きものが絶滅の危機に瀕しても対応が可能になる。そのために前もっての準備が欠かせないのだと、環境を守るための取り組みの意味を教えてくれる。
 本田さんは尚も言う。「身近を見つめることが何よりも大事」と。200万都市札幌のこの豊かな自然環境を守るためにも、地元の生きものに目を向けることが欠かせない。動物園はそういう発信をしていかなければならないのだと、地域の動物園の使命を語ってくれた。

 最初の、「猛禽類に対しての考え方はこれまでは間違っていた」という話のように、世の中には、「これが正しい」とされてきたことが「実は違っていた」など、時代によって修正されることも少なくない。ある一つの視点が「ほんとうに正しいのかどうか」を絶えずいろいろな角度から検証したり、疑ってかかるということも大事なことなのかもしれない。
 もっと身近では、「哺乳類は可愛らしくて、爬虫類は気持ちが悪い」という感覚も考えてみれば「すりこみ」のひとつ。多様な視点でものを見つめつつ、「そこから何に繋がっているのか」という想像力を働かせなければならないのだと改めて思う。
 猛禽類や爬虫類、そして、身近なカエルまで、地球上に棲む生きもの達の意味合いや奥深さをユニークにひょうひょうと語る本田さんの口調に惹き付けられながら、「多くの生きものの中で、やっぱり・・・ヒトって面白い」という感想が思わず出てきた私だった。

 この日は、コメントの収録も数回分こなし、帰宅は夜。ここ10年ほどは夜の講座や地方講座も定期的にあるので家人が食事の管理をしてくれるようになってずいぶん久しい。この晩も炊きたてご飯を食べながら他愛のないお喋りは続く。巣に舞い戻っての給餌と休息・・・これで「機織り後のおつう」でも「よれよれのトビ」でも、また明日頑張れる。
 本田さんは、「猛禽類の習性を知り尽くして、その鳥の力を使いこなす鷹匠はすごい」と言っていたが、うちにも、自慢じゃないが、実は「すごい鷹匠」がいる。私という生物の生態・習性をよく知ってうまく飛ばせてくれる役目が。
 時々、「村井さんは、ほんとに仕事が好きですよね」と他の人から言われることがある。自分だったら仕事はすぐにでも辞められますよ・・・という半ば呆れた感をにじませながら。或いは、もう無理の出来ない年齢なのだから・・・とご親切なアドバイスもある。
 とはいえ、「なんのために仕事をするのか、なぜ仕事を続けるのか」・・・飛び続けているうちに面白いようにその「なんのため」が見えてきつつあるような気がして、飛ばずにはいられない。「すごい鷹匠」の力と技を借りながら、とにかくもっと何かが見えるまでバタバタと飛ぶしかないのだと思っている。

(インタビュー後記 村井裕子)

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