村井裕子のインタビュー後記

はじめに
毎週日曜朝9:30から放送の『ほっかいどう元気びと』では、様々な場で活躍している人たちへのインタビューを通し、「人が前に進む力はどこから出てくるのか」「人は逆境や困難な時にどんな発想で切り抜けるのか」など、それぞれが辿ってきた道のりから、その原動力にスポットを当てています。

東日本大震災が起こってまだ日が浅い2011年の春から、この番組は始まりました。
世界が大きく変わってしまった中で、私たち皆がひとりひとり、「自分は何が出来るのだろう」と様々なことを真剣に考えるようになっている中、この番組でも、「大事なことはなんだろう」「気づかなくてはいけないことはなんだろう」という視点で、これから先の前に進むヒントを探していきたいと考えています。

人の中には、自分でもまだわかっていない新たな「力」が隠されています。それは、順風の時には案外見つけられないもの。逆風だからこそ発揮出来るものがあるはず。

そんな、人の中の「宝もの」に光をあてることで発せられる言葉の数々に、ラジオをお聴きの皆さんと共感することが出来たら幸いです。

「村井裕子のインタビュー後記」は、対談後、そんな言葉の数々から、私自身が感じた「大切なこと」を毎週綴っています。番組を聴いた後に、その言葉たちをもう一度噛みしめる、心豊かな場になりますように。

6月26日放送

出町南さん 今回の「ほっかいどう元気びと」、お話を伺ったのは2015年春から札幌市清田区里塚で「絵本屋カフェ南風」を営む出町南さん 61歳。36年間の教員生活を経験した後、絵本の良さをもっと広めたいと自宅を改装し、お茶も楽しめ本の話もゆっくり出来る心地よい空間を提供している。
 ホームページでの「絵本屋南風」の紹介は、出町さんによるこんな文章で始まっている。
 ・・・太古からの風が吹き抜ける長沼町の丘に、「絵本屋ぽこぺん」という本屋がありました。店主は飛鳥詩子さん。絵本を語らせたら情熱的で、陽だまりのような温かい人でした。

 その飛島詩子さんは、2012年8月26日放送分でお話を伺った「元気びと」のおひとり。その凛とした佇まい、嘘のない話し方、意志の強さ、そして人を包み込むような優しさ、まるで絵本に登場するキーパーソンの女性のような雰囲気は一瞬にして人を惹き付けるものがあり、インタビュー終了後も、もう一度会ってその胸の引き出しに熟成された豊かな言葉のひとつひとつをさらに引き出してみたいと思わせる存在感だった。
 いつかその「太古からの風が吹き抜ける」絵本屋へ行ってみたいと思いながらも実現しないまま、飛島さんは癌を患いその翌年の春に他界。「会いたい」と思った人には会わなきゃ、「行きたい」と思ったところには行かなきゃ・・・と、すべてのものには限りがあり、「いつか」という曖昧なものに寄りかかる生き方をしては駄目なのだと自分に言い聞かせたのを覚えている。
 会いたい人がこの世からいなくなるという現実はとても寂しいものだが、その「絵本屋ぽこぺん」の飛島詩子さんの蔵書2600冊を買い取って「絵本屋カフェ南風」を開いた人がいるということを風の噂で知り、なんともあったかい気持ちになった。是非お話を聞きたいと思い、出町さんをお呼びした。

 出町さんはとても謙虚に、詩子さんの大切な蔵書は交流していた多くの方々によって行くべきところに渡り、その2600冊は最後に残ったほんの一部。思いのこもったそれらの絵本も多くの人に見て貰いたい、手渡したいとの思いで詩子さんの夫である児童文学作家の加藤多一さんに相談し引き取らせて貰ったのだと丁寧に語る。
 飛島さんが子供の本について真剣に学びたいという人達を集めて開いていた「ぽこぺん学習会」。その参加者のひとりだったという出町さんは、小学校の先生をしながら「北海道学校図書館協会」の選定委員として本の選定や紹介に携わっていたこともあり、そこでの学びがとても刺激になったという。「絵本というのは、生身の人間が生身の人間に渡すもの。絵本の中には丸ごとの人間が入っている。その共有を大事にしたい」といった飛島さんの思いに出町さんも共感。その物語と社会的なこととどう繋がっているのかということも興味深い研究のテーマだったと話す。

出町南さん 「ぽこぺん」を何度も訪れる中、教師を辞めた後で自分も絵本屋をやれたらと漠然と思っていたという出町さん、ある日、飛島さんから「あなたが退職したらここでカフェをやろう。ほんとは私、カフェもやりたいんだけど、絵本で手一杯。あなたがやってくれない?」と声を掛けられ、そんなことが出来るのかしらとほんとうに嬉しかったという。その時期は仕事でいろいろな悩みを抱えていたそうだが、漠然としたものがひとつの目標になった喜びで心が晴れるのを感じたそうだ。
 飛島さんが癌を患い、亡くなる一月ほど前に病床を訪ねた出町さんは、思いだけを伝えられればそれでいいという気持ちで「絵本屋をやりたいと思っていた」と話すと、「教員をしてきたあなたにしか出来ないことがきっとあると思う」と笑って言ってくれ、その言葉が今の自分を後押ししてくれたと目を少し潤ませながら話してくださった。

 私が今回、「絵本屋カフェ南風」の出町南さんの取り組みとお話で伝えたかったのは、「人の思いは人によって繋がっていく」ということ。人の一生は長いようで短い。自然の営みに比べたら風のように渦巻いて去っていく一瞬のものかもしれないが、一心に思いを込めて何かに取り組んだことは必ず誰かの心に届いて受け継がれていくということだ。
 人の命は絶えても、目には見えない「種」は残る。では、自分はどうなのかと自分自身と向き合った時に、言葉や思いや行動の、ほんのささいなものでいい、ごく身近な人へでもいい。「自分は何を遺せるのか」と考えれば、今、この一瞬一瞬にやるべきことが見えてくるのではないか・・・そんなことも感じさせて貰ったインタビューだった。

 出町さんは、他人と比べることから自分をなかなか解放出来ず、自己の肯定を抑圧が邪魔していた時期もあったというご自身の葛藤についても率直に話してくださったが、そんな自分が変われたのは絵本への解釈を深める取り組みによって自分を信じることが出来ていったということは勿論、飛島さんとのさりげない会話の中で「あなたはあなたでいいのよ」と受けとめて貰えたことが大きかったと話す。
 きっと、この先、出町さんが絵本を介して誰かの背中をそっと押すのだろう。「あなたはあなたでいいのよ」と。そして、またその誰かが次の誰かの背中をそっと・・・。
 そんな、目には見えない柔らかな糸の中に、たしかに飛島詩子さんも生きているのだなぁと思う。

(インタビュー後記 村井裕子)

▼ Back Number2016年

▼ Back Number2015年

▼ Back Number2014年

▼ Back Number2013年

▼ Back Number2012年

▼ Back Number2011年

HBC TOPRadio TOP▲UP