村井裕子のインタビュー後記

はじめに
毎週日曜朝9:30から放送の『ほっかいどう元気びと』では、様々な場で活躍している人たちへのインタビューを通し、「人が前に進む力はどこから出てくるのか」「人は逆境や困難な時にどんな発想で切り抜けるのか」など、それぞれが辿ってきた道のりから、その原動力にスポットを当てています。

東日本大震災が起こってまだ日が浅い2011年の春から、この番組は始まりました。
世界が大きく変わってしまった中で、私たち皆がひとりひとり、「自分は何が出来るのだろう」と様々なことを真剣に考えるようになっている中、この番組でも、「大事なことはなんだろう」「気づかなくてはいけないことはなんだろう」という視点で、これから先の前に進むヒントを探していきたいと考えています。

人の中には、自分でもまだわかっていない新たな「力」が隠されています。それは、順風の時には案外見つけられないもの。逆風だからこそ発揮出来るものがあるはず。

そんな、人の中の「宝もの」に光をあてることで発せられる言葉の数々に、ラジオをお聴きの皆さんと共感することが出来たら幸いです。

「村井裕子のインタビュー後記」は、対談後、そんな言葉の数々から、私自身が感じた「大切なこと」を毎週綴っています。番組を聴いた後に、その言葉たちをもう一度噛みしめる、心豊かな場になりますように。

5月22日放送

 「人生の幸せは、自分で努力して身に付けた能力を社会のなかで発揮し、かつそのことが人や社会のためになっていると感じられたときに得られるものだ」
 今話題のアドラー心理学。その生きるヒントとなる言葉が引用された『アドラー 珠玉の教え』(永江誠司著 講談社+α新書)という本の序文にそんな一節があった。
 著者は、アドラーが「人生の幸せ」をそのように捉えていると書き、そしてこう続ける。
 「人の幸福は他の人を幸せにすることのなかにあり、そのためにも人は努力して能力を獲得し、それを自分のため、そして他の人のために発揮することが大切なのだ。この場合、他の人とは世の中の多くの人であってもよいし、特定の一人であってもよい。自分の能力を発揮して他の人のためになることをすることで、それが自分の幸福として還ってくる」
 「ほっかいどう元気びと」でおひとりおひとりにお話を伺っていると、それぞれの取り組みの源泉はまさにそこなのではと気づく。自分で努力して身に付け発揮する能力が誰かのためになっているという実感こそが人生の幸せであると信じて動く人達。・・・「こども食堂」を立ち上げた人、バラ園を造った人、観光地で新たなチャレンジをしてきた人、北海道ならではの石鹸を作る人・・・このひと月だけでもその取り組みのジャンルは多種多様だが、個々の笑顔にそんな「幸せ感」がにじみ出ていたのが印象に残っている。

荒川義人さん 5月22日放送の天使大学栄養学科教授である荒川義人さん(63歳)も、日本の中高年男性が皆こんなふうに心の中を愉快にしていたらもっと世の中明るくなると思わせて貰えるような笑顔の持ち主。人や地域への貢献によって「人生の幸せ」を感じていることがお話から伝わってきた。
 荒川さんは、現在大学で管理栄養士を目指す学生達に対して、食べ物と健康に関する講義と実験を担当。一昔前まで食べ物に関して重要だったのは、「栄養があるから」とか、「美味しいものをお腹いっぱい食べられて幸せ」など、栄養価や単に美味しいという価値。時代は変わり、「病気の予防や治療にいかに役立つかという食材の機能」がより期待されるようになってきたために、そこを見極められる管理栄養士の役割は益々大事になっていると栄養学の重要性を語る。だからこそ、「ほんとうに必要な食材は何か」を理解して各所で伝えられる人を育てたい。そのためには、何よりも自分達の住む北海道の食材を学ぶことが先決と、産地と生産者を知るための農業実習などにも力を入れていると話す。生産の現場に出ることで、学生側が得る実感だけでなく、若い生産者達にとっても自分が手がける作物を客観的に知って誇りを持てるといった刺激にもなっているのだそうだ。
 生産する人とそれを料理し提供する人、双方の視点を混ぜ合わせて、その互いの潜在力は勿論、力を合わせて北海道の「食」の潜在力を引き出していくことが大切なのだということが伝わってくる。

 北海道食育コーディネーター会議座長、札幌市食育推進会議会長、北海道フードマイスター認定制度運営委員会委員長などなど、行政とも連携した様々な活動にも携わる荒川さんのモットーは、「食を通じて北海道を元気にしたい」ということ。「北海道は食の宝庫だから美味しい」という漠然とした現状から個々の食材の「持ち味」を科学的にも明らかにしてアピールしていくことが今後益々求められ、だからこそ「地産地消」を一歩進めて「地産地活」への仕組み作りを盛りあげなくてはならないのだと力説する。
 荒川さんのそれらの取り組みの根底には、「北海道、このままで大丈夫か・・・」という心配があるという。北海道の農業を始め第一次産業の未来を「なんとかしなければ」という思い。豊富な食材を有効に活用する加工技術の掘り起こししかり、観光資源としての新たな活用しかり、やれることはまだ沢山あるはずと語り、さらには、道民の食と健康に関しても、「食育」は勿論、「高齢化と食」という新たな課題に対して各分野が繋がりを持って益々意識を高めていかなくてはならないと話す。
 お話を伺っていて興味深かったのは、例えば「食育」に関して。荒川さんは、幼稚園や小学校などでの取り組みはだいぶ浸透してきているが、高校から大学生、新社会人になって食生活が乱れるのを見逃してはいけないと指摘する。折角子供の頃に朝ご飯の大切さを学んでも、夜更かしの生活習慣が始まった途端に朝起きられずに朝食を抜き、そこから食のバランスが崩れていく傾向を「なんとかしなければ」と話す。そのために今後は、「大学生への食育」も視野に入れていくのだそうだ。そして、高齢化時代の「食」の問題。独り暮らしのお年寄りの栄養不足をどう指導するかとか、老人福祉施設や病院に道産食材をもっと普及させるために何をすればいいかなど、お年寄りの食と健康も「なんとかしなければ」と語る。
 いずれの年代でも、不健康な食事で病気になり、薬を飲んで治療するのではなく、日々口に入れるものへの意識で病気にならない身体を作るということ。しかも、一過性のブームや間違った情報に振り回されたり踊らされたりしないこと。それこそが、これからの「成熟した時代」に求められる生き方の知恵に違いない。そして、食に恵まれた北海道は、まさに、一級の「食材」に関わる、優れた「人材」を育てる絶好の場所でもあるのだと、そこをもっとアピールしてもいいのだと感じた。

荒川義人さん 荒川さんにも、収録後、「宝ものは何ですか?」と訊ねてみると、その答えは「教え子達」。
 前任の北海道文教短期大学を離れる時、すでに巣立った教え子達も前にした最後の講演で「あなたたちは私の宝ものです」と伝えたのだと少し照れくさそうに教えてくれた。
 荒川さんの教え子達は、管理栄養士は勿論、道内各地で様々な「食」の現場に向き合っている。その分野は繋がり合っており、食べ物を通して地域全体を盛りあげるためには単独で何かするのではなく、絆を作りながらそれを広げていくことが欠かせない。「だからこそ、教え子達のネットワークがそれこそ宝ものなのです」とも。
 そして、「教え子達に期待すること」を訊いてみると、「みんなそれぞれに悩みを抱えながらも、それぞれの分野で輝いてくれている。前を向いて頑張ってくれている」と思いやり、こんなふうに語ってくれた。
 「彼ら彼女らには、北海道のためとか日本のためとか肩に力を入れ過ぎなくていいから、まずは身近な地域、身近な人達に貢献して欲しい」と。

 努力して自分の能力を獲得し人や地域に貢献する「幸せ」。そして、そういう「人生の幸せ」を感じることの出来る人を育てるという「幸せ」・・・。「貢献心」というのはそうやって受け渡されていくのだと改めて感じたが、荒川さんの「まずは身近な地域、身近な人達へ」という言葉に共感を覚えた。
 前述のアドラーは、「共同体感覚」という表現で人が人と生きる大切さを説いている。目の前の他の人を喜ばせることが貢献であり、それは自分に出来る小さな事からでいい。そして、ただ一人の人に対しての貢献でもいいのだ、と。
 独りでがむしゃらに大きなものを背負って空回りするより、人と人とが繋がりながら支え合うほうが何倍もの力が生まれるし、やはりそのほうが幸せを感じられる。
 「身近な人をどう喜ばせられるだろうか?」は、さりげないけど大切な問いかもしれない。

(インタビュー後記 村井裕子)

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