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2018年9月2日のゲスト

小野 浩二さん
株式会社秀岳荘 代表取締役社長
小野浩二さん

訓子府町出身 50歳。
札幌大学経営学部卒業後、コンピューター関連会社に6年ほど勤務。
先代社長の次女 晶子さんとの結婚を機に、1997年に秀岳荘に入社し、その後店長、取締役等を経て2012年に3代目社長として就任した。

村井裕子のインタビュー後記

 より良く仕事し、より良く生きる。・・・人の一生の最も基本的なテーマを短く言葉にすると行き着くところはそういうところか。人はそれぞれ何かしらの働きをしながら生きている。でも、それが苦役になってしまえばあまりにも辛い。どんな心持ちで仕事をして、どんな心持ちで生きるか?・・・毎週インタビューを通して“人の思い”を聞かせていただいていると、満たされるか否かの違いは外側からの様々な要因を超えて自分の内側の気持ち次第だという気がしてくる。何かの装置を効率よく動かすためにセッティングするように、自分自身の意識を何らかの気づきによってセッティングする。それを折々バージョンアップすることでその“装置”はうまく回っていくだろう。『幸福論』を説いた哲学者のアランが「悲観主義は気分によるものであり、楽観主義は意志によるものである」と言っているように、それは誰かがセットしてくれるのを待つのでも“オートマチック”に頼るのでもなく、自分独自のマニュアル設定にするということが最大の分岐点。
 「楽しい人間になりたい」と“なりたい自分”がはっきりしている今回の『元気びと』へのインタビューでそんなことを感じた。

小野浩二さん お客様は、北海道で1955年創業の登山とアウトドアの専門店「秀岳荘」代表取締役社長 小野浩二さん 50歳。三代目社長に就任して6年。国内屈指の品揃えを誇る総合アウトドアショップを沢山の笑顔が生まれる拠点にしている。
 「秀岳荘」で扱うのは様々な仕事に活用する道具もあるだろうが、なんと言っても日々働く人々の“とっておきのオフ”のための道具。登山、キャンプ、ハイキング、自転車、山スキー、カヌー、クライミングといった大自然というフィールドに飛び込んでリフレッシュするための“遊び”を支える様々な商品がほぼ手に入るという道民お馴染みの場所だ。
 そのためには、社長始めスタッフ達は山や野、川、海・・・好きなところへ出掛けてしっかり“遊ぶ”ことが欠かせないという。有給を消化しそれぞれの得意なフィールドで体験を積むことで「お客さまと同期出来る」と小野さんは言う。商品知識も深まり、お客様への提案や安全面でのフォローなどもしっかり身に付くという一石二鳥。そんなスタッフ達に「商品全般をすっかり任せている」という小野さんの社員への思いは、「それぞれにやりたいことをして貰いたい」ということと「無理はさせない」ということ。社員が楽しく仕事が出来ていると、それはお客さまにも伝わる。とにかく皆に喜んで貰いたい、お客さまの笑顔がいつでも見たいのですと、破顔一笑で語る。

小野浩二さん 収録前に、「僕はマスオさん。社長だからスーパーマスオです。運だけはいい」とユーモアたっぷりに話されていたが、小野さんと「秀岳荘」とのご縁は、札幌大学時代、先代社長の金井哲夫氏の次女の晶子さんとの出会いから。結婚を機に「秀岳荘」に入社し、店長から取締役を経て三代目社長としての大役を任されたのだという。
 全体を俯瞰しながら皆のやりたいことをやって貰うというトップとしての采配の仕方は、最初から順調にいったのだろうか。そのあたりを伺うと、「二代目の考え方が素晴らしく、そのやり方を一生懸命に受け継ぎました」と尊敬を込めて語る。以前は、自分の考えを押し通すやり方で何度も“痛い目”にあったそうで、まずは、「人の意見を聞く」ということから始め、自分のスタンスに対して先代の背中から学び、小さな気づきをひとつひとつ積み重ねていったのだという。
 「いろんなことは時が決める」というやり方も学びの中のひとつ。山登りと同じで、無理はしない。危ないと判断したら引き返す。嵐が来ると思ったら雪洞を掘ってじっと待つことが大事ということを実際の登山の体験からも心しているという。
 「風は必ず止み、朝は必ず来る。だから、待つことが大事なんです」
 先代が大事にしていた“哲学”の数々。それらをきちんと踏襲するためには、“腹落ち”無くして前には進めない。その考え方に共鳴するだけではなく、山の尾根を自分の足で一歩一歩進むように実践を積み重ね、迷いや辛さもしっかりと体験することで経験則が身についてきたのに違いない。「遊びを仕事に、仕事を遊びに」という哲学を深めることはけっして簡単ではない。自分自身は勿論、周りにも浸透させていくということは、思う以上に難しい。

 ちょうどこのインタビューのタイミングで読んでいた本が佐藤優さんの『国語ゼミ AI時代を生き抜く集中講義』(NHK出版新書)というもの。「ビジネスパーソンこそ国語力を身につけよう!」というテーマで、「読解力」「類推する力」そして、「思考力」を付ける大切さを説いていくとても触発の多い1冊だったが、その中で、小説や物語の読解を進めるヒントとして、宮下奈都さんの『羊と鋼の森』、リチャード・バック『かもめのジョナサン』が例に挙げられ、そこから何が“類推”出来るのかが提示されていた。
 類推のひとつには人間の「努力」について。理想の努力のあり方とは、「努力をしているとも思わずに努力をしている」ということ。「才能のある人は、努力をしていると思わずに、自然に、あるいは楽しみながら、継続的に努力をしている」と。
 そして、“そういった無意識的な努力”ができるようになるために必要なのが、「感化」という契機なのだと佐藤さんは続ける。誰かの仕事ぶりに圧倒され、「こうした“感化”が強烈であればあるほど、人は“努力しているとも思わずに努力”をすることができるようになる」「“感化”の経験があるかどうかが、その後の成長を左右する」「師と仰ぐ人の懐に飛び込めるかどうかが大切」と。
 “小説から社会の縮図が見えてくる”というテーマで書かれていた章だったが、「秀岳荘」の三代目社長の小野浩二さんが、今、とても楽しそうに「北海道のアウトドア=遊び」を多くの人に広める仕事に邁進されているのは、“理想の努力”が何かに気づいているからであり、それは先代に大いに感化された契機があったからこそではないかと、偶然に手に取った1冊が解説してくれたようだった。そして、章の結に引用されている『かもめのジョナサン』のこんな一文もまさにシンクロ。
 「・・・きみはみずからをきたえ、そしてカモメの本来の姿、つまりそれぞれの中にある良いものを発見するようにつとめなくちゃならん。彼らが自分自身を見出す手助けをするのだ」※
 今回の『元気びと』は、自分自身の強みをセットアップし、さらには周りの人達の強みのスイッチを入れていくのに持てる力をどう使えばいいのかという“これからのリーダー的役割”の問いかけも含んでいたのではと思う。

※『かもめのジョナサン 完成版』リチャード・バック作/五木寛之訳(新潮文庫)

(インタビュー後記 村井裕子)

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