流氷が消える!?オホーツク海沖100キロ、最前線レポート
流氷が消える!?オホーツク海沖100キロ、最前線レポート

航海図

「寒極」という言葉がある。地球で最寒い場所を指す。
北半球の寒極は、オホーツク海の北側にある。
地球で最も寒い場所から吹き下ろす風が、オホーツク海の流氷を作っている。
しかし、最も寒い場所だから、地球温暖化の影響も大きい。
第一管区海上保安本部の砕氷型の巡視船「そうや」は、海上交通の安全確保のため、長年流氷の海を観察してきた。その船に、最先端の調査機材を携えた北大の研究グループと乗り込み、オホーツク海の流氷に起こっている異変を追った。

fifth day 5日目 紋別沖41マイル〜稚内港

朝日に染まるオホーツク海は、とても奇麗です。人がめったに訪れることがない海で迎える朝は気分がいいものです。 この写真(写真「オホーツク海の朝」)に写っているのは、朝までの間に生まれた「新しい流氷」です。この薄い流氷が今注目を集めています。海で氷ができる時、冷たく塩分を含んだ重い水が海底に沈んでいきます。この水は海の深い所で海流を作り、地球の動脈ともいえる働きをしていることが解っています。もし、海で氷が生まれる量が少なくなると、この動脈の働きが弱くなるのです。オホーツク海で出来た深い海流は、北太平洋に何かしらの物質供給をしていると考えられています。この海の流氷は、深いところで、地球規模の影響を及ぼしている可能性もあります。
巡視船「そうや」は砕氷能力を持っていますが、ここ数日それを生かした航海になっています。この日、「そうや」の操船を任されたのは、野原昌子さん。保安大学校を卒業した後、去年12月に航海士として「そうや」に配置されました。もちろん流氷の海での航海は初めての経験です。
「そうや」は、船の先端が尖っていて、氷を押し割りながら進んでいきます。しかし、船の梶やスクリューは出っ張っているため傷付きやすく、砕氷船といえど細心の注意が必要です。大きな流氷を避けながら、進路を細かく調整します。「氷がどのくらいの厚さなのか、なかなか予想できないので、操船は難しいです」と話す野原さん。気がつかないうちに厚い流氷に乗り上げることもありましたが、船には影響なく、ほっとした表情を見せていました。
この日、大きな低気圧が近づいて来ているため、調査を早めに切り上げ、稚内港へ入りました。冬、人が見る事がない海での調査は終わりました。調査を指揮した北大低温科学研究所の豊田威信さんは、今回の調査で一定の成果があったとしながらも、「新しい試みを交えながら、継続的に調査することが大切。オホーツク海は地球環境の変化を知るために重要な場所になると信じている」と、今後の調査に期待を寄せていました。


オホーツク海の朝 流氷の中を進む巡視船「そうや」 巡視船「そうや」の若き航海士
fourth day 4日目 網走沖 北53マイル〜紋別沖41マイル

調査も4日目になり、衛星画像で最も流氷が多いと思われる一帯に差し掛かりました。確かに流氷はだんだん厚くなり、密度も濃くなっていきます。北大低温科学研究所の豊田威信さんによると、薄い氷は、北海道沿岸でできたもの。厚いものは、東サハリンで出来て、成長しながら流れて来たものだそうです。
人工衛星のデータなどから、今年はこの厚い流氷の量が少ないことがわかっています。それはオホーツク海北部の気温が高かったためと考えられています。 この日は、今回の調査で最も大切な「同期観測」が行われました。これは、「マイクロ波」で観測する装置を積んだ衛星(雲があっても海面を観測できる)と衛星と同じ装置を積んだヘリコプター、船と、3カ所で同じ時に、同じ場所を観測し、その精度を見比べようという試みです。
北半球では初めてというこの試みのため、700万円もする機械がヘリコプターに積み込まれました。今回の試みで、衛星からのデータと、実際の流氷の誤差が確かめられれば、北極や南極の海氷の変動をより詳しく解明できると期待されています。 第一管区海上保安本部では、冬になると、船舶への情報として、海氷速報図を発表していますが、現在の衛星では、雲があると情報が得られないという不便さがありました。しかし、これが実用化されれば、より詳しい「海氷速報」が提供できる可能性が出て来ます。


東サハリン生まれの流氷 ヘリコプターに搭載されたマイクロ照射装置
third day 3日目 枝幸沖東15マイル〜網走沖 北53マイル

きょうはオホーツク海を海岸沿いに南下しました。網走方面に行くに従い、流氷が少しずつ大きくなって行く気がします。実際、船に当たる流氷の音はかなり派手になってきました。 北大低温科学研究所のチームは、流氷の採取を行いました。船からバスケットと呼ばれるカゴのようなものをつり下げ、そこに乗り込んで研究員が水面ぎりぎりの高さで、流氷を採ります。小さな浮き氷だけでなく、大きな流氷からはドリルでアナを開けて、一部を採取します。
この氷で何を調べているかというと、「流氷の中にどんな生物がいるか」なんです。冷たい氷の中はいかにも住み辛そうですが、中にはたくさんの生物がいます。北大低温研究所の研究員野村大樹さんは、「そうや」の1室で、融けた流氷から生物を集めるサンプル作りをしています。
氷が溶け出すと、水面に小さな生物の姿を見ることができます。流氷の中には、アイスアルジーと呼ばれる植物プランクトンが繁殖します。それを食べる動物プランクトンが集まり、さらにそれを狙って魚が集まります。流氷があるオホーツク海の豊かさです。 この日は、いい天気が続き、きれいな夕焼けとなりました。夕日に染まって、冬の白い使者「流氷」もオレンジ色に染まっていました。


流氷採取作業 サンプル作りをする野村さん 夕日に染まる流氷
second day 2日目 稚内沖〜枝幸沖 東15マイル

朝一番の調査は午前6時。宗谷岬を周り、前日の時化が嘘のように静かな海になっていました。水深ごとの水温と塩分濃度を計りました。この時の表面水温は4.1度。対馬海流から分かれた宗谷暖流の影響があるためだということです。それから東に向かって1時間もすると、流氷が姿を現しました。とはいっても、この海域で生まれたニラスと呼ばれる薄氷です。この氷の海原の水温はマイナス1.4度。わずか一時間でこれだけの水温の差があります。
早速、海上保安庁の観測員の調査にカメラが同乗させてもらい、空から観察。海洋情報部の伊藤さんは「ほとんどが薄い氷。1時間半のフライトの間に、例年見られるような、オホーツク海北部から流れて来た厚い氷は見当たらなかった」と説明しました。
一方、北大低温研究所のスタッフも着々と調査を始めていました。調査チームのリーダーは豊田威信さん。巡視船「そうや」での流氷観測を14年担当しています。数々の調査機器の中で、最初に紹介するのがこれ(下記写真「へ先に付けられた観測機器」)。
船の舳先に飛び出たはしごに取り付けられたのは、熱放射を計る道具。オホーツク海の流氷が減って来た原因を探る調査のひとつです。流氷減少の原因は、気温の上昇だけでは単純に説明できないと感じた豊田さんは、気温や風、湿度に加え、太陽や水中からの熱放射量も計り、総合的に分析しようと試みて来ました。これらのデータから、その場所が流氷の成長に適しているかどうかを判断することができます。2002年からのデータから、豊田さんは「オホーツク海では年々流氷が出来にくい環境になってきている。しかし、その原因は未だにはっきりとしない。」と話します。確かに、オホーツク海で操業する漁師は、口を揃えて、「氷が薄くなっている」といいます。いったいオホーツク海で何が起こっているのか?


調査で初めて出会った流氷 左:調査を担当した伊藤さん 右:北大低温科学研究所 豊田威信さん へ先に付けられた観測機器
first day 1日目  出航 小樽〜稚内

16時に小樽を出航。折からの吹雪で、沖は荒れていました。この日は、移動日でしたが、つらい航海スタートとなりました。
この航海の目的は、流氷の姿を科学的に解明し、冬の航海の安全や、地球規模の気候変動の実体を把握することです。調査は海上保安庁海洋情報部と北大低温研究所が共同で行っています。オホーツク海の流氷は、北極地方とくらべ低緯度でありながら、氷の生産性が北半球で最も高く、一方で近年、氷の生産量が著しく減少していることがわかってきています。それはなぜなのか?それを解明するのも、この航海の目的のひとつです。
流氷観測を行う巡視船「そうや」は、3100トン、長さ約99メートルという大きな船です。砕氷機能を生かし、昭和56年から、オホーツク海での流氷観測で大きな役割を果たすようになりました。この船のもうひとつの特徴はヘリコプターを搭載していることです。船上から発着するヘリは、流氷の観測でも大きな機動力となっています。
「そうや」は、巡視船として取締りや救助、捜索にあたるのが本来の仕事ですが、この流氷観測では、科学の最先端の知見を集めた調査船に変わります。北大低温科学研究所が、北極や南極で使っている調査機器を持ち込んで船のあちこちに取り付けました。
明日からは本格的な調査のスタートです。その前にこの船酔い・・・。

巡視船そうや(提供:第一管区海上保安本部) そうやから離陸するヘリコプター